「ああ、もしも……」
と、紡がれる呟き。
毛足の長いカーペットにぺたりと座りこんで、フィアは指先で摘んだ"それ"を、ぼん
やりと眺める。彼女の横顔は、今にも壊れそうな儚さに満ちていて、そっとため息のひと
つでも吐けば、そこら中の芸術家が挙ってモデルに使いたがるだろう、と思われた。
……そんなの、うれしくもなんともないが。
「ああ、もしも、これが本物だったならば、」
芝居がかった口ぶりをして、フィアは指先から視線をそらし、傍らに置いてある段ボー
ル箱を見やった。――フッ、と皮肉げに息をこぼし、ぴんっと弾いて"それ"を放りこむ。
ぱさり、と乾いた音がした。
「今ごろこの部屋は、甘く優しい芳香でむせかえるほどでしょうに……」
即興で吟じて、フィアは仕上げ期日が乱暴に記された段ボール箱の中身を、憎々しげに
にらむ。細い針金に緑の色紙を巻きつけ、安っぽい飾りを付けた造花たち。『ランクレー
探偵事務所』である屋敷の二階、来客用の一室は、花の香りに代わって接着溶液の薬品臭
が染みついていた。
もはや誰もこの部屋を"客室"とは呼ばない。まさに歴とした"作業場"だった。
貧困にあえぐ事務所の財政を支える経済活動――造花作り内職――の最前線だ。
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