暗がりには強い盲目のアルテが静かに室内を歩き回る。木棚に並ぶ硝子瓶を指先で撫で
て「ワイン倉……、保存環境は良いようですし、まだビネガーにはなってませんか」など
と呟き、こつこつと乾いた足音を立てている。だが、ふとアルテは足をとめ石材を敷いた
床の一部分を靴先でなぞった。不思議そうに、
「ここだけ、ほかと感触が違いますね。カビ、でしょうか……」
『ああ、そこ。殺されてすぐここに運ばれたわたしが寝かされてたトコだわ。染みついた
血のせいで、カビが生えてるみたいね。彼は、ここでわたしの死体に宝石の魔力を使った
の。それから、噴水へ』
「……そうですか」
 平静を保った声で返事しながら、さすがのアルテも冷汗をかいていた。
『ああ、そうだ。噴水の――、わたしの死体が指にはめてる〃氷神の瞳〃。好きにしてい
いわ、あなたたちの』
「えっ? ……いや、それは、ねえ」
 および腰なフィアの台詞に、ステファとアルテが「うんうん」とうなずく。
 ロザリーとのやりとりはフィアに一任するつもりらしい。サーリアの体にとり憑いてる
からって任せるのは卑怯だ、とフィアはふたりを睨むが、ずるい大人たちは空口笛を吹い
て顔を逸らした。
『そちらのかたは?』
「ッ僕……? 僕は」
 それまで黙っていたケーニスが、いきなり話の矛先を向けられ言葉に詰まった。
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