「強がるな、足が震えているぞ」
「――え?」
 見えすいたワナだった。しかし、これほど切迫した対峙の中では、ときとして高度な駆
け引きより、児戯に等しい引っかけのほうが効果的なことは多い。今が、そうだった。不
意を突かれたアルテが、ほんのわずか、まばたきの十分の一にも満たない時間、意識を己
の足先に向ける。
 その、とても隙とは呼べないような隙が、彼女の命とりになった。
〃覆面の者〃の次の言葉はアルテのすぐ真後ろ、背後から聞こえた。

「…………………」

 その言葉が終わるより先に、アルテの意識は、途切れた。
4
presented by KURONEKO-SAN TEAM
©KOGADO STUDIO,INC.