【二階廊下/16:02】
十人のフィアと、十匹の猫サーリアが睨みあっている。
もちろん細胞分裂したわけではなくて、それぞれが〈宝具〉の力を解放し、常人離れし
た高速で「移動」と「停止」をくり返しているがゆえの残像効果だ。十対十の攻防は、と
うに十分を経過し、なお終了しようとしない。
「なかなかしぶといじゃない、サーリア!」×10
優勢を保ちながらも攻めきれないフィアが、不敵な表情で、牽制の言葉を放った。
その額には、じわりと汗がにじんでいる。
『フィアちゃんこそ!』×10
全身の毛を逆立てた本気モードのサーリアがいい返す。屋敷は、大きさだけを考えるな
ら、豪邸と呼んでも差し支えないほどだ。だが、十分に広い廊下といえど、そこに十人と
十匹が詰めこまれれば、その光景は窮屈なものである。
猫サーリア×10が、フィア×10の人間の壁を突破し、階段まで辿りつけばサーリア
の勝ち。それを防ぎきればフィアの勝ち。実は、ふたりが、なにかをめぐって衝突するこ
とはさほど珍しくない。だが、それは大抵、フィアに凄まれたサーリアがあっさり尻尾を
巻いて降参することで、ケリがついていた。
なのに。
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